Concept

人間の感覚や感情に働きかける”空間の質”を考える

– はじめに –

富山県高岡市を拠点に建築設計事務所を主宰しています。
大学院修了後、設計事務所での勤務と地方公務員を経て、現在に至ります。
二児の父でもあります。

幼い頃を振り返ると、私は小学生の頃、家族旅行に連れて行ってもらうことが大好きでした。 その影響もあってか、訪れる場所ごとに異なる特色をもった自然環境・文化・人々の暮らしに興味をもつようになり、次第に暮らしと密接に関わる建築を学びたいと思うようになったことを記憶しています。

その後、大学では建築を学び、大学院では音響設計家の清水寧氏に師事し、建築音響学や環境心理学を専攻していました。簡単に当時の研究内容を紹介すると、「建築空間の中で人が集中して作業をする際にどのような音環境が好ましいのか」というテーマを探究していたのですが、当時から人間心理を中心に据えた建築の在り方にとても関心がありました。

そのような背景から、人間の感覚や感情に働きかける”空間の質”を大切にした建築を目指して、これまで建築と向き合ってきました。

– ”空間の質”について –

「空間の質」というものは空間を構成する物に備わっているというよりも、人が空間に身を置いてその空間を五感でどう感じるかによって決定づけられるものであると私は考えています。

例えば、集中して本を読んだり、勉強をしたい時、人はどのような空間が心地よいと感じるでしょうか?

図書館のように比較的静かな空間を選ぶ人もいれば、カフェのように会話が存在し少しざわついた空間を選ぶ人もいるでしょう。中には、音ひとつしないこもった密室が良いという人や、爆音で音楽を聴きながらという人もいるかもしれません。

このように、空間について好ましいと思う感覚は人によって大きく異なります。図書館やカフェのような落ち着いた環境を選ぶ人の中でも、好みの環境はそれぞれ微細に異なります。

これはすなわち、人によって「空間の質」の捉え方が全く異なっていることを意味していると思います。

居心地の良い空間をどのようにつくるか。
人それぞれ千差万別の感覚に寄り添いながらも、感覚を研ぎ澄ます工夫を生活空間に散りばめることで、人は日々の暮らしの中でより多くの豊かさや愉しさを獲得することができるはずです。

そのような観念を体現するため、次の3つのアプローチに沿って設計を行っています。

– 3つのアプローチ –

Approach 01
五感で感じる仕掛けをつくる


建築の設計は単に間取りを考え、建物の外観を美しく整えることだけではありません。
真に”求められるもの”は何でしょうか?

住宅の場合、家族とゆったり過ごすことのできる居心地の良い時間や友人を招いて語り合う楽しい時間など、ワークスペースの場合は、快適な室内環境による安心感や集中力など、”求められるもの”は”形にならないもの”として存在しています。
世間一般において重要視されている間取りや外観ももちろん大切なのですが、これらはあくまで空間を構成する要素の一つに過ぎないと考えています。

空間は、天井高の高低による開放感や包まれ感、床レベルの高低による視点の移動、窓から見える近景や遠景、窓で切り取られる景色、風の通り道、仕上げ素材の質感や香り、光の明暗、光の反射や透過、音の反射や吸音、気配の伝わり方など、実に様々な要素が密接に関係を結びながら成り立っています。それらを計画の初期段階から間取りや外観と等価に、総合的に捉えていくことで、調和のとれた居心地の良い空間が生まれます。

Approach 02
場所の特性を読み解き関係性をデザインする


建築は単体で成立するものではなく、常に周辺があり、「人と周辺環境」、「人と建物」、あるいは「周辺環境と建物」の間に関係性をもって成立していくものと考えています。

建物を計画する際、周辺環境を含めた場所の特性を把握することは非常に重要であり、敷地の周辺に建物がどのように建っているのか、隣接して緑はあるか、遠くに山は見えるか、近隣に公園はあるか、田や畑が広がっているかなど、敷地の形や大きさ以上に周辺環境は計画に大きな影響を与えます。

建築が内部空間のみで完結することなく、外部要素を巻き込んだ計画とするため、敷地や周辺環境をリサーチのもと、状況や時とともに変化する人間と環境との関係を考察し、その場所に相応しい建築の佇まいや空間の在り方を探します。

Approach 03
普遍的な価値を追求する


建物は竣工時が完成ではありません。

住まい手はこれからの長い時間を家族や地域と共に歩み続けていくことになります。しかしながら、その中で家族形態やライフスタイル、コミュニティは時間の経過と共に大きく変化していくはずです。

そうなれば、設計者はあらかじめ物理的な環境を「つくる」だけではなく、住まい手が永きに渡って環境を「育む」ことができるよう、住宅に時間軸を意識した”余白”を組み込むことが大切になってきます。

どんなに暮らし方が変わっても、飽きのこない包容力のある”普遍的な建築”を、そして、住まい手の彩りに富んだ暮らしを料理に例えるならば、その背景としての”シンプルな器”を追求していきます。