Concept

人間の感覚や感情に働きかける”空間の質”を大切に


【はじめに】

私は小さい頃、家族旅行に連れて行ってもらうことが大好きでした。 その影響もあってか、訪れる場所ごとに異なる特色をもった自然環境・文化・人々の暮らしに興味をもつようになり、次第に暮らしと密接に関わる建築を学びたいと思うようになったことを記憶しています。

大学では建築を学び、大学院では建築音響学や環境心理学の分野を専攻していました。簡単に当時の研究内容を紹介すると、「建築空間の中で人が集中して作業をする際にどのような音環境が好ましいのか」というテーマを探究していたのですが、当時から人間心理を中心に据えた建築の在り方にとても関心がありました。

そのような背景から、人間の感覚や感情に働きかける”空間の質”を大切にした建築を目指して、これまで建築と向き合ってきました。


【”空間の質”について】

「空間の質」というものは物に備わっているというよりも、人が空間に身を置いてその空間を五感でどう感じるかによって決定づけられるものであると私は考えています。

例えば、集中して本を読んだり、勉強をしたい時、人はどのような空間が心地よいと感じるでしょうか。

図書館のように比較的静かな空間を選ぶ人もいれば、カフェのように会話が存在し少しざわついた空間を選ぶ人もいるでしょう。中には、音ひとつしないこもった密室が良いという人や、爆音で音楽を聴きながらという人もいるかもしれません。

このように、空間について好ましいと思う感覚は人によって微細に異なります。
これはすなわち、人によって「空間の質」の捉え方が全く異なっていることを意味していると思います。

居心地の良い空間をどのようにつくるか。
人それぞれ千差万別の感覚に寄り添いながらも、感覚を研ぎ澄ます工夫を生活空間に散りばめることで、人は日々の暮らしの中でより多くの豊かさや愉しさを獲得することができるはずです。

そのような観念を体現するため、次の3つのアプローチに沿って設計を行っています。


【3つのアプローチ】

Approach 01
五感で感じる仕掛けをつくる

建築の設計は単に間取りを考え、建物の外観を美しく整えることだけではありません。
真に求められるものは、住宅の場合、家族とゆったり過ごすことのできる居心地の良い時間や友人を招いて語り合う楽しい時間、ワークスペースの場合は、快適な室内環境による安心感や集中力など、形にならないものとして存在しています。
世間一般において重要視されている間取りや外観ももちろん大切なのですが、これらはあくまで空間を構成する一要素に過ぎないと考えています。
空間は、天井高の高低による開放感や包まれ感、床レベルの高低による視点の移動、窓から見える遠景や近景、窓で切り取られる景色、風の通り道、仕上げ素材の質感や香り、光の明暗、光の反射や透過、音の反射や吸音、音や気配の伝わり方など、実に様々な要素が密接に関係を結びながら成り立っています。それらを計画の初期段階から間取りや外観と等価に、総合的に捉えていくことで、調和のとれた居心地の良い空間が生まれます。


Approach 02
場所の特性を読み解き関係性をデザインする

建築は単体で成立するものではなく、常に周辺があり、「人と周辺環境」、「人と建物」、あるいは「周辺環境と建物」の間に密接な関係性をもって成立していくものと考えています。敷地の周辺環境をリサーチし、それらの関係を読み解き、その場所に相応しい建築の佇まいや建築の在り方を探します。


Approach 03
普遍的な価値を追求する

建物は竣工時が完成ではありません。
建主はこれからの長い時間を建物と共に歩み、共生していく関係であり続けます。しかしながら、その中で建主の家族形態やライフスタイルは時間の経過と共に大きく変化していくはずです。
どんなに暮らし方が変わっても、飽きのこない包容力のある普遍的な建築を、
<建主の彩りに富んだ豊かな暮らしを料理に例えるならば、その背景としてのシンプルでかけがえのない器>を追求していきます。