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響きの住処 | Gradation of echo (unbuilt)

響きのグラデーションをつくる

建築音響の世界では、反射音が多く残響時間が長いことを「ライブ」、その反対に反射音が少なく残響時間が短いことを「デッド」という言葉を用いて音空間を表現する。
室内の残響時間を求める式にはセービンの残響式があり、室の気積が大きいほど、あるいは仕上材の吸音率が小さいほど、残響時間が長くなるというものだ。

この住宅の増築プロジェクトでは、空間の気積や室の配列、仕上の吸音率といった残響に関わる要素を操作することで、「ライブ」と「デッド」の概念を空間に織り込み、”響きのグラデーション”をつくることを試みた。

リビングは床を300mm掘り下げることで落ち着きのある居場所とした。吹抜を設けて気積を大きくすることで最も「ライブ」な空間としている。さらに、吹抜に面した書斎や主寝室の室内建具を開け放つと、ひと繋がりの大きな空間となり、家族が異なる階に居ても気配を近くに感じながら過ごすことができる。1階LDK は吹抜と2階書斎を介して2階バスコートまで繋がり、中間期には風の通り道としても機能することが期待される。

ダイニングとキッチンは天井高さを2200mmと低めに設定し、こもり感のある空間としている。天井仕上に木を用いて吸音率を高め、やや「デッド」寄りの落ち着いた空間とすることで、家族でゆったりと食事や会話を楽しむことができる。

主寝室や各個室へはクローゼットを通過してアクセスする形式をとっている。ウォークスルークローゼットには衣服が収納されるため、吸音率が高まり、極めて「デッド」な空間となる。このウォークスルークローゼットは住宅内のパブリックとプライベートを繋ぐ緩衝空間であり、場面や気持ちを切り替える装置となる。刹那的な音空間の変化はそれらの領域間に適度な心理的距離を生む役割も果たす。

2階バスコートの床はフロアレベルより400mm高くし、手すり壁は安全性・プライバシー・音の反射・空への眺望との兼ね合いから2階フロアレベルより1500mmの高さとしている。浴室に囲まれ感を出してくつろぎの空間とし、窓を開放した時でも程良く「ライブ」な状態を保つことで浴室特有の反響を感じ取れるように計画した。